『日用品の文化誌』 柏木博

日用品の文化誌 (岩波新書)

日用品の文化誌 (岩波新書)


  • 近代的な機械類の中で、家庭の中に入り込んだ最初期のもののひとつ、ミシン(ソーイング・マシン)。

ミシンは、かつてはどの家にも置かれていたが、今日ではほとんどみかけない。
大量に生産される既製服の普及が最大の理由という。
本来、既製服の製造のためのミシンが、既製服の普及によって圧迫された。
フランスのティモニェさんはミシンで軍服の生産を行なったが、ミシンに驚異を感じた仕立業者から襲撃された。
また、アメリカのウォルター・ハントさんは本縫いのできるミシンを開発したが、「お針子が仕事を失う」という彼の娘の説得でミシンの製造計画を断念した。

  • ハンカチ

ハンカチーフという名称は16世紀になってからあらわれた。
それまでハンカチーフにはさまざまなサイズやかたちがあったが、マリー・アントワネットの意見でルイ16世は1785年に、国内でハンカチーフの幅を同じものにする布告を出した。これにより小さな四角いハンカチーフがスタンダードなデザインになったのだという。
1924年にキンバリー・クラークさんが「クリネックス・フェイシャル・ティッシュ」を発表したのを契機に次第にハンカチーフは姿を消していく。
1930年代には、使い捨てのハンカチーフとして60%の人がテッシュ・ペーパーを使うようになった。
「清潔さ」という感覚や観念が変化したのだ。
何度も洗いながら使う「布」より1回限りで捨ててしまう「紙」を受け入れたということは、「清潔さ」への過剰な願望が、「消費」への禁欲という観念よりも勝ったということかもしれない。
使い捨ての紙コップ、紙袋、トイレの便座の紙カバーや紙おむつなどの近代の紙製品は、現在の過剰な清潔意識と「いつでもどこでも」という便利さを追求する感覚や思考が反映されている。



ほかにもスーツとか電子レンジなどの「もの」について書かれているが、興味深いのは、それらの「もの」が作られ、使われるようになったことによる私たちの生活と思考の変化だ。
スーツなどは、当初、どんな体型の人でも着られるように作られた労働者階級の服だったものが、フォーマルの場にも着られるようになり、今ではスーツを着てなきゃしっくりこないくらいだ。