東京日記 卵一個ぶんのお祝い。


東京日記 卵一個ぶんのお祝い。

東京日記 卵一個ぶんのお祝い。

あとがきによると、東京近辺だけで売っている「東京人」という雑誌に連載している日記をまとめたものが、この本であるという。そして、嘘日記ではなく本当日記(4/5くらい)らしいのです。

電車の中で思わず吹きだして笑ってしまったのは、


十一月某日 雨
猿について、友だちから注意を受ける。
その一。猿はスーパーマーケットの白いポリ袋が大好きで、ポリ袋のかしゃかしゃという音をきいたとたんに飛んできてひったくろうとするので、猿の前では持たぬように。
その二。猿は蛇のおもちゃが嫌いなので、猿のそばに行くときには、必ずゴムの蛇をこれみよがしに手でぶらぶらと振りながら近づいてゆくこと。
友だちは突然電話をしてきて、以上の注意をうながした。
「どうしたの、急に猿のことなんか」と聞くと、友だちは少し早口になりながら、「いそいで教えてあげないと、いつ猿が来るかわからないし」と答えた。
いつ来るかわからないの?こわごわ聞き返すと、友だちは確信に満ちた声で、いつ来るかわからないのよっ、と言った。


4/5くらい本当の日記だというので、嘘の1/5は最後の4行かもしれないけど、次の日の日記。



十一月某日 雨
猿が来そうな気がして、怖い。
いちにち怖くて、家から出られなかった。


さらに次の日、

十一月某日 曇
まだ猿が来そうな感じ。家の外から来るだけではない、押入れや浴室に湧いてくるということも考えられる。
用心のため、一時間に一回、家じゅうの見回りをする。



こんな風に毎日暮していれれば、なんだかしあわせな気がする・・・。


七月某日の暑い日に
この夏に何回「暑い」と言っただろう・・・なんて考えるところまでは、そこらへんの小学生と変わらないレベルだけど、そこからの話のひろげ方がおもしろい。


 一時間に平均三回として、一日に五十四回、六月半ばから一ヶ月の間に一六二〇回。これから暑さの少しおさまる九月半ばまでの二ヶ月間に三二四〇回。
 すると、夏じゅうあわせて四八六〇回は「暑い」と言う予定であることになる。
 約五千回の「暑い」を言うぶんのエネルギー、これを何かに利用できないものだろうか。発電とか、そこまでいかなくとも、ちょっとした放電とか。


子供の言うことも面白い。


 二月某日 晴
 子供が仕事場に遊びにくる。
 「ねぇねぇ、オクラごっこしようよ」と子供が言う。オクラごっこって、なに?と聞き返すと子供は「オクラになった気持ちになってじっとしていること」と答える。
 答えたとたんに、子供は「オクラの気持ち」に没入したらしい、両手をつぼみの形にあわせ、目を閉じ、こきざみに体を揺らしはじめた。
 ぼんやり眺めていると、子供が目を開けて、「早く一緒にオクラになろう」と促す。しかたないので、真似をして掌をあわせる。でもぜんぜんオクラの気持ちにならない。
 「オクラは難しいね」しばらくしてからつぶやくと、子供はまた目を開け、「まずは、みどりっぽい気分になれば、いいんだよ」と教えてくれる。できるだけ「みどりっぽく」なろうとするが、やはりどうにも難しい。