高校の夏休み、読書感想文を書くために読んだ本。
何気なく父の本棚に置いてあったものを、ちょうどいいやーと思い読んだが、なかなか難しい話で読むのが大変だった記憶がある。
大学に入って、また夏休みに読書感想文の宿題(しかも、古典・近代・現代・中国文学・国語学の各方面1冊づつの合計5冊読まなければならなかった)があったので、もう一度読んだ。

 文学史などでは自然主義の始まりのように紹介されているし、有名な作品なので、あらずじはだいたい知ってると思うが、いちおう私なりのあらすじを書いてみる。

 小学校の教師をしている瀬川青年は、児童からは人気のあるよい先生だった。
ちょっと悩みすぎるところがあり、友人からも心配されていたが、それが最近、ますます悩むところがあった。エタ(四民(武士・農民・商人・工業従事者)の下の民とされ不当な差別を受けてきた人たちの、明治時代までの蔑称)である自分を隠している自分と、それを隠さずに世間に対し闘っていく猪子先生。
 父は「隠せ」と言い続けた。

 その戒を破る、つまり破戒がこの作品のテーマ(?)なのだが、まぁ、校長先生の陰謀あり、下宿先にいる娘さんとの恋愛あり、とさまざまあり、一番感動するのは、みんなに自分がエタだと知れて、もうここにはいられないと旅立ちを決心する主人公が、最後に教え子たちにこの不当な差別に対する自分の気持ち、つまり自分はエタだけれども間違ったことを教えてきたつもりはないし、ちゃんと指導してきたという自負と悔しさ、みたいなことを語るのだが、教え子たちは先生を差別しないし、自分たちにとっては本当によい教師だったという感謝の態度で彼を見送るところ。

 しかし、この作品の結末が、主人公・瀬川青年が新天地に目指していくところで終わるのだが、それが逃げることになると解釈している人もいる。

 うーん、たしかに、闘わずに逃げた、といわれればそれまでだが。